当研究室ではAldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2)の遺伝子多型の予防医学的重要性に関する研究を行っています。東アジア人の約半数が保有するALDH2多型(rs671)は種々の疾病リスクに影響します。遺伝子型を簡単な質問で8-9割方予測できるうえ、予防可能な生活習慣や環境因子と重なって顕在化することが多いため、知識の普及による疾病予防効果が期待できます。

<参考文献>

松本明子 日衛誌 総説 2016 アルデヒド脱水素酵素 2(ALDH2)の構造・機能の基礎とALDH2 遺伝子多型の重要性 

Matsumoto A. et. al., REVIEW. EHPM. 2016 Roles of defective ALDH2 polymorphism on liver protection and cancer development

松本明子 日衛誌 総説 2018  アルデヒド脱水素酵素 2(ALDH2)遺伝子多型の予防医学的重要性

 

<ALDH2とは>

 アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)は、お酒を飲んだ後に生じるアセトアルデヒドという毒性物質を解毒することで知られる酵素です。他にも様々なアルデヒド(4ヒドロキシノネナールやマロンジアルデヒド、アクロレインやメチルグリオキサール、ホルムアルデヒド etc)を代謝します。色々な臓器に広く分布し、発現量の多い重要な酵素です。

 

ALDH2遺伝子多型とは>

 ALDH2をコードする遺伝子には2つのタイプがあることが知られ、2型遺伝子を持っている場合、解毒力が低下します。2型遺伝子を持つ人は日本人の約半数です(東アジア以外の地域ではごく稀です)。飲酒によって肌が赤くなったり動悸がしたりするフラッシング反応が出現するのが特徴です。2型を持つ人は飲酒や喫煙による癌が生じやすい体質であることが分かっていますが、アルコール依存症になりにくく、肥満や高血圧、不安神経症など、様々なリスクが比較的低いことも示唆されています。2型遺伝子を持つことで、体のしくみが様々に変化し、解毒力の低下に適応することも示されています。  

 

<遺伝子型の予測>

 ALDH2はお酒を飲んだ後に生じるアセトアルデヒドという毒性物質を解毒する責任酵素ですので、以下のように遺伝子型を予測することができます。確実に知るためにはDNA検査が必要です。

1型遺伝子を2本持っている人:飲酒を始めた頃、少量の飲酒では顔が赤くならなかった方

              年齢が上がってくると顔が赤くなりやすくなる方が多いようです
1型遺伝子と2型遺伝子を1本ずつ持っている人:飲酒を始めた頃、少量飲酒ですぐ顔が赤くなる体質があった方

              飲酒を続けていると顔が赤くなりにくくなります
2型遺伝子を2本持っている人ごく少量の飲酒ですぐ顔が赤くなる方

              頭痛、吐き気、動悸、眠くなる・息苦しい、気分が悪くなるなどの症状がある方 

              いわゆる下戸の方です

 飲酒するとエタノールが体内に吸収され、ADH1Bなどの酵素の働きでアセトアルデヒドが生じます。様々な酵素がアセトアルデヒドを酢酸に解毒する能力を持ちますが、ALDH2が最も低い濃度から働いてアセトアルデヒドを取り除きます。

※遺伝子型予測におけるADH1B遺伝子型の影響

 エタノールをアセトアルデヒドに変えるADH1Bにもコードする遺伝子に多型があります。1型遺伝子を持っている人(日本人では5%程度と考えられます)はアセトアルデヒドの生成が遅く、たとえALDH2の2型遺伝子を持っていても顔が赤くなりにくい体質となるため、遺伝子型の予測が外れやすいです。

<当研究室におけるプロジェクト>

 ・ 飲酒関連癌の新規リスクマーカー:皮膚メラノーシスの検討 
 ・ALDH2遺伝子型によって個別化された慢性炎症予防法の検討
 ・ALDH2遺伝子多型が細胞性免疫に与える影響の検討
 ・ALDH2遺伝子型により個別化された認知機能障害予防法の検討