より正確に理解していただくために

 

基本情報

  • アルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)とは、身体のなかで出来るアルデヒド類(反応性が高く発がん性が指摘されているものもあります)を酸化して、カルボン酸類に代謝するタンパク質です。
  • ALDH2 遺伝子の一塩基多型 rs671は東アジア人に特異的であり、rs671変異保有者ではALDH2の酵素活性が著しく低くなります。
  • アルデヒド類の一つ、アセトアルデヒドは、主にお酒を飲んだ時に身体に取り込まれたエタノールから産生されます。ALDH2酵素活性が低い場合、飲酒後にアセトアルデヒドが酢酸に代謝されずに蓄積しやすく、濃度が高くなることで、皮膚紅潮や動悸をはじめとする不快な症状の原因となりやすいことが知られています。この体質的な特徴のことを、以降、「Asian flush体質」と呼びます。rs671変異保有とAsian flush体質は、ほぼ同じものを指しています。
  •  rs671は他の遺伝子多型と比較して圧倒的に表現型が強く(遺伝子多型に起因する体質の異なり方が顕著であり)、医療の個別化に有用であることが明らかになりつつあります。

 

Q&A

1.総論

Q.1-1 どうしてAsian flush体質と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係に着目したのでしょうか

A.           私たちは、rs671が免疫能に与える影響に以前から着目しており、rs671が免疫チェックポイント阻害剤の効果に影響することやCOVID-19ワクチンの効果に影響することなどを報告してきました。これはモデル動物を用いた実験結果から偶然得られた発見に端を発しています。

 また、rs671変異をもつヒトは日本を含む東アジア人に多く、この分布がCOVID-19の感染や死亡の低い地域と重なることからも、Asian flush体質とCOVID-19の関係が疑われます。

 さらに、日本では縄文時代から弥生式時代に移行する頃にrs671変異が広がり、このころ蔓延した感染症に対して保護的であった可能性が指摘されています。このことからも、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対してrs671が保護的である可能性が考えられました。

 

Q.1-2 Asian flush体質ですが、3回も罹患しました。研究結果と合わないと思います。

A.          今回の調査ではワクチン接種がいきわたる前のCOVID-19パンデミック早期における影響の推定していますので、その点ご留意ください。本調査では、2019年12月から2021年8月までの21ヶ月間に3回COVID-19罹患を経験された方はいらっしゃいませんでした。また、COVID-19罹患リスクには、ウイルスへのばく露機会の多さ、生活様式、ワクチン接種状況、流行株の種類、体質、等、様々な因子が関係します。ご質問をくださった方が置かれた状況と本研究参加者の平均的な状況がかけ離れている可能性もあります。もちろん、今回の調査においてもAsian flush体質でCOVID-19経験者がいらっしゃいました。しかし、Asian flush体質でない方と比較した場合はCOVID-19罹患が少ない、という結果でした。

 

 

2.調査結果の詳細について

Q.2-1 Asian flush体質の方は、COVID-19に罹りにくいとのことですが、どの程度影響するのでしょうか

A.          Asian flush体質のCOVID-19罹患に対する影響の強さを推定するために、2019年12月から2021年8月までの21ヶ月間を主な観察期間としました。観察期間を限定したのは、Asian flush体質の影響を観察しやすくするため、ワクチン接種完了者(2回接種者)が増え、罹患予防のための行動規範が大幅に変わって罹患経験者が急激に増加した期間を除外するためです。この観察期間においては、Asian flush体質の方のCOVID-19リスクが、79%低いと見積もられました(Asian flush体質でない方との比較)。

  

Q.2-2 Asian flush体質の方は飲酒習慣者が少なく外食などのリスク行動をとりにくいため、リスクが低いのでしょうか 

A.       今回の調査の回答(自己申告)では、感染が疑われた場所は 「自宅」 が最も多く(Asian flush体質でない方、37.4%; Asian flush体質の方、 36.5%)、「飲食店」はいずれの群でも多くはなく(それぞれ12.9% 11.9%)、Asian flush体質の方とそうでない体質の方との差はほとんどありませんでした。論文補足資料Supplementary material)のTable S2をご参照ください。2019年12月から2021年8月までの21ヶ月間に限った場合も同様であり、感染が疑われる場所についてAsian flush体質の方とそうでない体質の方との差は検出されませんでした(p = 1.0, Fisher’s exact test)。また、Cox比例ハザードモデルを用いて週当たり1回以上の習慣的飲酒によるリスクを推定したところ、統計学的に有意な影響は検出されませんでした。論文Table 2をご参照ください (偏回帰係数 0.25、p = 0.5)。 

 

Q.2-3 Asian flush体質の方は飲酒量が少ないためにCOVID-19リスクが低いのでしょうか

A.          今回の調査では、飲酒量との関係も調べています。 Cox比例ハザードモデルを用いて週当たり1回以上の習慣的飲酒によるリスクを推定したところ、統計学的に有意な影響は検出されませんでした。論文Table 2をご参照ください (偏回帰係数 0.25、p = 0.5)。論文補足資料(Supplementary material)のFigure S5では、二つの体質ごとにそれぞれ飲酒量を3つの群に分け(非飲酒者、一日当たり純アルコール20 g以下、それ以上)、それぞれの群のCOVID-19罹患状況を示しています。飲酒量とCOVID-19罹患の関係は一貫しておらず、Asian flush体質で純アルコール20 g/日を超える方についてもCOVID-19罹患は多くありませんでした。

 

 

3.Asian flush関係

Q.3-1 日本人はどのくらいの割合の人が、Asian flush体質なのでしょうか 

A.       人口の4-5割と報告されています。 

 

Q.3-2 飲酒すると、なぜ皮膚が赤くなるのでしょうか 

A.         お酒に含まれるエタノールは、まずアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドになり、それがアセトアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)によって酢酸へと代謝されます。しかし、rs671変異保有者(ほとんどがAsian flush体質者)では、ALDH2酵素の働きが弱く、アセトアルデヒドが体内に蓄積しやすくなります。アセトアルデヒドが皮膚の血管を拡張させ、血流が増加して皮膚が赤くなります。 

 

Q.3-3 昔はお酒に強かったのですが、加齢とともに弱くなり、赤ら顔になるようになりました。どのように考えれば良いのでしょうか 

A.          遺伝子型は、加齢で変化しませんが、加齢により代謝能力が低下することは多く報告されています。加齢による代謝能力の低下によって、遺伝的にはAsian flush体質でない方がAsian flush体質に分類される可能性があります。今回のアンケート調査では、この誤分類を防ぐため、初めて飲酒したころの体質について尋ねましたが、やはり高齢になってから皮膚潮紅を自覚されるようになった方が、「Asian flush体質」と回答された可能性があります。論文のなかでは、このことに関し、「本調査の限界の一つである」と述べています。 

 

Q.3-4 飲酒後赤ら顔になる体質の方で、かなりお酒を飲む方を知っています。どう理解すればよいでしょう 

A.          Asian flush体質の方でも、飲酒を続けることである程度の適応が得られるようです。例えば肝臓に誘導されるCYP2E1という酵素は、飲酒習慣によってダイナミックに増加し、アセトアルデヒドの解毒に寄与する可能性があります。その他、グルタチオンやオートファジー(細胞の自食作用)による解毒など、様々な適応が考えられますが、詳しくわかっていません。いずれにしても、Asian flush体質の方が飲酒を続けると、食道がんをはじめとするある種の飲酒関連がんリスクが大幅に上昇することが知られています。私たちはこの問題に関する啓発活動を行っています。

 

 

4.アルデヒド関係

Q.4-1   論文では、繰り返し内因性アルデヒドを記載し、強調されていますが、なぜでしょう 

A.         本調査の結果からは「Asian flush体質が飲酒忌避を介してCOVID-19に保護的となる」ことは示唆されませんでした。つまり、飲酒とは関係のないメカニズムでAsian flush体質がCOVID-19に対し保護的である可能性が高いと解釈できます。ALDH2は飲酒関連酵素としてよく知られていますが、お酒を飲まない生物種でもたくさん発現するタンパク質であり、本来の役割は、体内で常に生じる種々のアルデヒド類、すなわち内因性アルデヒドの代謝を担う酵素であると思われます。つまり、飲酒をしなくてもAsian flush体質の方の体のなかには比較的高い濃度の内因性アルデヒドが存在し、それがCOVID-19耐性の理由であることが疑われます。 

 

Q.4-2   内因性アルデヒドにはどのようなものがあるのでしょう 

A.         以下に例を挙げます。

  • ホルムアルデヒド:一炭素サイクルにおける葉酸代謝物やアミノ酸代謝などから発生し、100 μM程度の濃度で体内に存在するようです。(殺菌剤として、あるいはシックハウス症候群の原因物質としても知られています)。
  • 4-ヒドロキシノネナール(HNE)、アクロレイン:オメガ6不飽和脂肪酸が反応性の高い活性酸素種(ROS)にばく露されたときに体内で生成されることが知られるカルボニル化合物。多くの疾患との関連が報告されています。
  • その他:体内の多くの代謝系の中間体として、たくさんのアルデヒドが生じています。多くは、次に続く代謝酵素によって直ちに他の代謝物に変換されます。このため体内における定常濃度は低いものが大部分です。 

Q.4-3   消毒液にもエタノールが含まれていますが、関係するでしょうか 

A.         エタノールの吸収経路には、飲酒以外のもの、例えば腸内細菌による発酵により生じるエタノールの吸収やお酒以外の飲食物、洗口剤、消毒液などへのばく露なども考えられます。その一次分解物としてアセトアルデヒドが生じます(外因性のアルデヒド類のひとつ)。ただし、アセトアルデヒドは数十μM程度の低濃度で自覚症状がでますので、飲酒以外のばく露源のインパクトは比較的小さいと考えられます。 

 

Q.4-4   アルデヒドが、新型コロナウイルス感染症の保護因子としての役割を果たしているようですが、アルコール飲料を飲んだ方が、効果が高まるのでしょうか 

A.         本調査では、飲酒量とCOVID-19の関連は検出されませんでした。つまり、本調査結果がCOVID-19予防のための飲酒を推奨するエビデンスにはなりません。飲酒については、未成年飲酒は法令で禁止されている他、本年2月に厚生労働省の飲酒ガイドラインが公表されています。飲酒が各種の健康障害に繋がる恐れがありますので、ご留意ください。 

 

【留意事項】

  • Asian flush体質の方、ALDH2 遺伝子rs671変異保有者の方では、飲酒により食道がんなどの飲酒関連がん発症リスクが高まることが知られています。
  • 飲酒については、厚生労働省の「飲酒ガイドライン」をご参照ください。
  • また、未成年者の飲酒は、法令で禁止されています。

 

【参考文献】


                                                                                                                                                                         更新日:2024年3月23日